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2018年6月23日

カウンター越しのエッセイ vol.01

日々お客様と言葉を交わし、コーヒーを楽しむカウンターテーブル。

「その話、もう少し詳しく聞いてもいいですか?」
そんな会話から始まった、お客様が綴るエッセイを不定期で連載。

今回のお客様はochiさん。
仕事や家族、自分自身について書いてくださいました。

 

「ムショクの話」

 

 

人は「ナニモノ」になるのか。

 

あなたは何者ですか?

 

あなたは自分を何者だと思いますか?

 

学生、社会人、主婦、サラリーマン、先生、年金暮らし、はたまたニート。

 

あなたは何者になりたかったですか?

 

警察官、お医者さん、ケーキ屋さん、サッカー選手、お金持ち。

 

 

 

あなたは普通ですか?

「学生です。空いた時間にアルバイトやボランティアをしています」

「主婦です。子どもを3人育てています。」

「サラリーマンです。妻と子どもを養っています」

 

かくいう私は無職。

 

 

つい最近まで「普通」に働いていたが業績の悪化から会社がなくなってしまった。

 

 

小学生の時は警察官になりたかった。

 

中学生の時は農家になりたかった。

 

高校生の時はお笑い芸人になりたかった。

 

大学時代は普通に働き、普通に結婚したかった。

 

社会人になると、お金持ちになることを夢見た。

 

しかし、つい最近まであった仕事が忽然と姿を消した。

 

私には妻がいて、子どもが2人いて、無職。

 

 

人間は何者になるか?

 

昔は、父と母の子どもだった。

 

学生になり、いつしか社会人になっていた。

 

気付けば誰かの恋人になり、夫になった。

 

それから父親にもなった。

 

子どもの頃に描いていた夢は叶わなかった。

 

学生の頃にあった不思議な万能感はどこかへ消えてしまった。

 

あっという間に社会にのまれ、でも大きな渦の中をもがきながらも私は日々を楽しんでいる。

 

それはいくつか社会で挫折した経験があるからだと思っている。

 

私について書いてみよう。

 

中学生までは成績がよかった。

だが高校での成績は下から一番か二番目くらいだった。

大学入試はうまくいかず、滑り止めで受けた大学に合格するのがやっとだった。

これが一つ目の挫折。

 

ただ夢はあった。

 

大学のゼミで知り合い、付き合っていた彼女と結婚をする。

という夢。

 

大学を卒業後はスーパーマーケットで働いていた。

その彼女とはこの時に別れてしまった。

 

この時、学生の頃の夢が一つなくなってしまった。

 

働いていたスーパーは関西でも有数のスーパーで若くして出世コースに乗った。

 

その時「主任」になり、「夫」になり、「父親」になった。

 

 

そのまま出世コースに乗り続けていればよかったが、もっとお金を稼ぎたい、
自分の力を信じてみたいと思い、26歳で建築資材のメーカーの営業に転職した。

 

一般的な「営業マン」になった。

 

そこで5年働き、十分にスキルがついたと思い転職をした。

 

「外資系損保マン」

 

なんて肩書きは良いけど、簡単に挫折した。

 

それが二つ目の挫折。

 

それから2ヶ月間「無職」だった。

 

保育園に行く子どもの送り迎えから家事、食事の用意まで。

 

就活をしながら「専業主夫」になった。

 

その後無事に産業機械のメーカーに転職ができた。

 

「営業マン」である。

 

業種は違えど、メーカー営業の仕方は心得ていたので楽に馴染むことができた。

馴染みに馴染んだので、また欲が沸いてきた。

「もっとお金が欲しい」

32歳になり、以前から誘われていた小さな建築会社に引き抜かれる事になった。

平均以上の給与と待遇に満足していた。

 

その時「係長」になった。

 

4人しかいない会社だった。

小さい会社を大きくするんだと働いた。

 

でも入社2ヶ月後のある日、社長に呼ばれた。

 

業績の悪化により会社を閉めることになった。

 

従業員は全て親会社に転籍、そして給与は下がるという提示だった。

 

それを固辞した所、辞めさせられてしまった。

 

また「無職」になった。

 

元々年収アップの為に転職をしてきた。

 

今まではどんな会社も書類選考はすぐに通り、面接でも好評価。

 

いくらでも仕事はあると思っていた。

 

しかし今回ばかりはそうもいかず、書類選考だけで100社は落ちた。

 

転職活動はすでに1ヶ月を過ぎていた。

 

私もまだバリバリ働けるという自信はある。

 

でも世間はなかなかそうも見てくれない。

 

「短期間で転職を繰り返した32歳の子持ちのおじさん」が今の私である。

 

人間は何者になるか?

 

今は自分の事を「無職」だとは思っていない。

 

何者にも染まっていない「無色」だと思っている。

 

次は何をしよう。

 

明日は何をしよう。

 

警察官になることを夢見ていた

子どもの頃と同じように「無色」なのだ。

 

私はこれから「ナニモノ」になるのだろうか。

-Ochiさん-